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不作為の放火における故意

~広島高裁岡山支部昭和49年9月6日判決~

 放火罪と聞けば、普通は積極的に火を点ける状態を思い浮かべますが、ふいに起こった火を消さなくても、結果的には積極的な放火と同じ延焼状態が生じます。
 このような、本来なら作為(積極的行動を起こすこと)によって犯すべき罪を、不作為(何もしなかったこと)によって犯した状態を「不真正不作為犯」といいます。

 この不真正不作為犯で現住建造物放火罪(刑法108条)を成立させるには、犯人にどのような主観を求めるべきなのでしょうか。

 まず、罪を犯す「故意」、すなわち「認識・認容の主観(火が燃え広がるのを防止するため消火等の措置をとるべき義務があるのにこれを無視し、そのことが原因で建物が焼えても構わないと考える心理)」を必要とするのはどの立場も共通しています。
 問題は、故意に加えて「既に起こった危険(火力)を利用しよう」という意思も必要かという点です。

 被告人Xは、窃盗の目的で切符売場に侵入し、室内でマッチをすって机の引出しを開けました。
 中にあった現金(紙幣と硬貨)をポケットに入れる際、硬貨が床に落ちたため、Xは、あたりの紙を1、2枚掴んで点火し、その明かりをもとに硬貨を拾い集めます。
 その際、いつの間にか火のついた紙切れを机上に投げ出していたらしく、火は他の紙に燃え移って約20㎝の炎をあげていました。
 しかしXは、物音をたてて犯行が発覚することを恐れ、既発の火勢を消し止めることなく現場を立ち去ったため、切符売場のあった現住建造物は焼けてしまったのです。

 1審は、Xに不真正不作為犯による現住建造物放火罪を成立させました。
 これに対し弁護側は、Xが「既発の失火によって延焼の結果を起こしても良い」とは思っていなかったと主張し、認容の意思(故意)・既発の危険を利用する意思の両方がないとして控訴しました。

 広島高裁岡山支部は控訴を棄却。
 故意Xが犯行発覚を恐れて逃走した際、机上には焼えやすい紙類が乱雑に放置されていたわけだから、当然これらに燃え移り、建物を焼くかもしれないことは、逃走前に十分認識し得た事態であって、実際Xにはその認識があったと判断しました。
 だとすれば、犯行発覚を恐れて消火せずにその場を立ち去ったXの心境は、既発の失火による延焼の結果発生を認容していたと理解できるとしたのです。
 不真正不作為犯の現住建造物放火罪を認めるには以上の認識・認容で足り、それ以外の主観的要件は不要として、これと同じ判断をした原審も相当であると結論付けました。

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