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被害者の承諾と結果の認識

~大審院昭和8年4月19日判決~

 ある人に自殺行為を促したところ、それを承諾し、結果的に死んでしまったという場合、これは殺人だと思いますか?それとも自殺に関与しただけだと思いますか?

 自殺することに本人の同意があれば、「被害者の承諾」があったのだから基本的には自殺だとして自殺関与罪202条)になります。
 一方、「被害者の承諾」がない場合は、死にたくない人を死なせるのですから殺人罪199条)です。

 本件では、「被害者の承諾」が、「自殺行為」の内容に対する承諾で足るのか、その先にある「自分の死」を正確に予見・認識したうえでの承諾までを指すのかが争われました。

 被告人Xは、失職して経済的に苦しかった隣人のAに対し、家計の補助をするなど、昵懇の間柄でした。

 ある日Aは、Xに、自殺を装って保険金を詐取できないかと相談します。
 Xは、不眠症薬を多量摂取して2・3日仮死状態に陥った者がいたという新聞記事を思い出し、「ある薬剤を服用して首を吊り、仮死状態になったあと、検視を経て、さらにある薬剤を服用すれば生き返るはずだ」とAに説きました。

 その後Xは、自分のアイデアは荒唐無稽だとすぐに悟りましたが、Aが愚鈍でXのことを厚く信頼していることを好都合と考え、あらかじめAに生命保険をかけ、自殺のように見せかけて保険金を騙し取ろうと企てました。
 そこで、Xが、Aに生命保険をかけたうえで今後の生活の補助を断ったところ、Aは上記計画を実行しようと申し出て薬剤を求めます。
 XはAに薬剤を渡し、「首を吊っても仮死状態のままで、Xが他の薬剤を使用すれば蘇生する」とAに誤信させたため、Aは自ら首を吊って死亡しました。

 ちなみに、A死亡後、Xは保険会社に保険金を請求しましたが、支払いを拒否されたため詐欺は成功しませんでした。

 原審は、Xに殺人罪(199条)と詐欺未遂罪(250条)を成立させました。
 それに対し弁護側は、自殺に対するAの承諾があったとして自殺関与罪を主張し、上告しました。

 大審院は、上告を棄却。
 AはXの虚言によって認識を誤り、一時仮死状態に陥っても再び蘇生できるものと信じて、自ら首を吊って死亡したのだから、Aに自分が死ぬ認識はなく、したがって自殺の承諾はなかったとしました。
 それゆえXはAを殺害したというべきで、原審判決は相当であると判断したのです。

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