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緊急避難と殺人

 暴漢から逃れるために、他人の敷地内に立ち入りながら逃げた。

 このように、このままでは危険な目に遭う、という切羽詰まった状況にあるとき、やむを得ずに他人の法的利益を侵害する行為を「緊急避難」と言います(刑法37条)。
 緊急避難が認められると、実際に生じた害(上の例では住居侵入)が避けようとした害(傷害)を下回っている場合は罰されません。

 今回の事案では、犯人の第2行為がこの緊急避難といえるかが争われました。

 YからA(Yの父親)の殺害を頼まれたXは、自分に疑いの目が向くのを避けるため、Aを断崖から突き落とし、Aが自分で誤って墜落死したように見せようと企てました。
 Xは、外出したAにある里道で追いつき、高さ約72mの断崖から突然Aの背中を突き飛ばして崖下に墜落させました(第1行為)。

 さらにXは、誤って墜落したAの救助を試みたように装い、これを後々の弁護の材料に使おうと思いつきます。
 Aの生死を確かめようと迂回して崖を下ると、約54m下方の崖の中腹に、意識不明のAがうつ伏せで倒れていました。

 Xは、まるでAを救助しに来たかのように、一旦はその体に手をかけてAを支えたものの、Aの体がゆるんでずり落ちたため、危うくAもろとも崖下に転落しそうになり、Aの手を離しました(第2行為)。
 その結果、Aは意識不明のまま崖下の川に転落して溺死しました。

 原審はXに殺人罪(同199条)の成立を認めましたが、弁護側は、Xの第2行為につき、手を離さなければ自分も滑落していたのだから仕方がないと緊急避難を主張し、殺人未遂罪(同203条)を訴えて上告しました。

 大審院は上告を棄却。
 まず、人を殺す目的で実行行為をした者に相手の死の責任を問うためには、その行為が死亡原因といえれば良いという基準を示しました。
 犯人の行為が死の「唯一の原因」であったり「直接の原因」であったりする必要はないというのです。
 したがって、殺人の実行行為である第1行為と被害者の死亡との間に、第2行為が介入し、その第2事実が死の最重要原因となっていたとしても、犯人の行為と被害者の死亡との間に因果関係が認められる限りは殺人罪に問うべきであって、殺人未遂罪にはならないとの判断を下しました。

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