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硫黄による殺人

~大審院大正6年9月10日判決~

 飛行機の墜落事故で死亡することを狙って航空券を渡すなど、「これでは到底目的を遂げられない」というような方法で罪を犯そうとする場合を、刑法では「不能犯」といい、不可罰になります。
 今回の事案では、せいぜい腹痛を起こさせる程度の効果しかない硫黄を、殺人(刑法199条)の目的で用いた犯人の行為が、あとに続く殺害行為(絞殺)との関係でどう評価されるかが問題となりました。

 被告人Xは、Yと共謀してYの内縁の夫A(当時、病床にあった)の殺害を企てました。
 まず、Aの食事に硫黄粉末5gをひそかに投入し、YがAにこれを食べさせたうえ、数日後、またXは硫黄粉末を混入した水薬をAに飲ませます(第1行為)。
 しかし、Aは苦しみを増しただけで死亡しなかったため、Xらは翌日Aを絞殺しました(第2行為)。

 原審は第1行為につき、Xに傷害罪(同204条)を成立させました。
 これに対しX側は、硫黄粉末を含んだ食事や水薬をAにとらせた行為は継続した殺害行為(第2行為)の着手なので、第1行為は殺人罪としては不能犯であり、これだけを切り離して傷害罪を適用するのは違法だと主張して上告しました。

 大審院は上告を棄却。
 まず、一連のXの行為につき、殺意をもって2つの異なる殺害方法(第1・2行為)を行ったけれど、第1行為では絶対に殺害結果は生じ得ず、ただ他人を傷害しただけで、第2行為でもって初めて殺害の目的を達したものと認定しました。
 そして、2つの行為がいずれも同じ殺意から出たものとしても、第1行為が殺人罪として純粋な不能犯である場合には殺人罪に問うべきではないとしました。
 ただ、ここで大審院は、この第1行為の結果が傷害罪に該当するならば、殺人罪としては不能犯であっても傷害罪として独立して処断すべきであると判断します。
 これは、殺人と傷害が犯罪の実行行為の部分で重なり合いが認められる(たとえば、傷害行為を繰り返して死に至らしめるなど)ため、罪質の軽い傷害罪の限度で犯罪を成立させてもよいとの判断からでした。
 したがって、第1行為を第2行為の殺人既遂罪と連続したものと捉え、殺人未遂罪だというのはふさわしくないと結論付けたのです。
 結局、Xには、第1行為につき傷害罪が、第2行為につき殺人罪が成立しています。

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