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自動車での衝突と殺人未遂

~名古屋高裁平成19年2月16日判決~

 計画的犯行の場合、犯人が「こうして、次にこうしよう」と手順を考えるのはよくあることです。
 しかし、先に想定していた手順がうまくいかずに犯人が犯行を中断した場合、裁判官はこれをどのように評価するのでしょうか。

 統合失調症を患っていた被告人Xは、病気による妄想を抱き、自らが一方的に好意を寄せるAを殺害して自分も死のうと考えました。
 Xは、Aがソフトボール経験者であることから身のこなしが早いだろうと思い、自動車で衝突してAを転倒させ、動きを止めた上で包丁を使い刺し殺そうと計画します。

 路上を歩いているAを発見したXは、計画通りに自動車を発進させ、時速約20㎞でAの右斜め後方から車両前部を衝突させました。
 ところが、Aは転倒せずにボンネットに跳ね上げられ、後頭部をフロントガラスに打ち付けて路上に落下したのです。
 思惑とは違う結果に動揺したXは、立ち上がろうとするAの顔を見て、急に「殺すことはできない」との考えに転じ、犯行を中止しました。

 検察側は、自動車をAに衝突させた時点でXは殺人罪(刑法199条)の実行に着手したと考え、Xを殺人未遂罪(同203条)に問いました。
 しかし、Xにとって自動車での衝突行為は殺人の準備行為に過ぎないと判断した1審は、この時点での殺意は認められないとして、Xに傷害罪(同204条)を成立させました。
 これを不服として、検察側が控訴。

 名古屋高裁は1審判決を破棄し、Xに殺人未遂罪の成立を認めました。
 高裁はまず、Xの計画によれば、自動車をAに衝突させる行為は、Aに逃げられることなく刃物で刺すために必要なものであると確認しました。
 そして、Xの思惑通りに自動車の衝突後Aが転倒していれば、それ以降の計画を遂行するうえで障害となるような特段の事情はないため、自動車の衝突行為と刃物による刺突行為は引き続き行われることになっていたと指摘しました。
 それゆえ、そこには同時、同所と言ってもいいほどの時間的場所的近接性が認められ、自動車の衝突行為と刃物による刺突行為は「密接な関連を有する一連の行為」ともいうべきもので、Xが自動車をAに衝突させた時点で殺人に至る客観的な現実的危険性も認められるから、その時点で殺人罪の実行の着手があったとしたのです。

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