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豊胸手術事件

~東京高裁平成9年8月4日判決~

 注射や手術といった医療行為は、行為そのものだけを考えるならば「刺す」「切る」などですから傷害罪(刑法204条)や暴行罪(同208条)にあたります。
 こうした医療行為を違法性のない「正当な業務行為」と認めてもらうには、その行為が治療目的である、承認された方法に依っているなどいくつかの条件をクリアする必要があります。「患者の同意」もこの条件のひとつです。

 では、ニセ医師の自称・医療行為に対して被害者(患者)が承諾をしていた場合、この「同意」はどう評価されるのでしょうか。

 被告人X(フィリピン人・医師免許なし)は、ホステスAに美容整形手術と称して医療行為(隆鼻手術と豊胸手術)を行いました。
 Aは、豊胸手術時の身体傷害等と麻酔薬注入に基づくアレルギー反応によりショック死してしまいます。

 1審は、Xに傷害致死罪(同205条)を成立させました。
 これに対して、X側は、被害者は手術を承諾したのだから違法性はないと主張し、控訴しました。

 高裁は控訴を棄却。
 まず、以前の判例(最高裁昭和55年11月13日決定)を引用して、「被害者が身体侵害を承諾した場合に、傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、この承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段・方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を総合して判断すべき」という判断基準を示しました。

 その上で、高裁は、

  1. 豊胸手術に対するAの承諾が、Xがフィリピン共和国の医師免許を持っていると信じたことによるものである(実際は、Xはフィリピンでの医師免許も持っていない)
  2. 豊胸手術を行う際に必要な検査・問診や、医療上必要な措置・準備のないまま、滅菌管理の全くないアパートの一室で手術等を行った
  3. Xは、Aの鼻部と左右乳房周囲に麻酔薬を注入し、メス等で鼻部および右乳房下部を皮切し、同各部位にシリコンを注入するという医療行為を行った

 等の事実を総合的に考慮し、「XがAに対して行った医療行為は、身体に対する重大な損傷、さらには生命の危難を招きかねない非常に無謀・危険な行為であって、社会通念上許容される範囲や程度を超えているため、社会的に相当といえない」という結論に至りました。
 したがって、たとえAの承諾があるとしても、違法性を否定できる性質のものではないと判断したのです。

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