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灯油と放火

~千葉地裁平成16年5月25日判決~

 刑法上、放火に着手したというためには、その行為によって具体的な危険が生じたことが必要です。
 灯油をまいて放火を試みた場合は、その行為の危険性はいかほどと評価されるのでしょうか。

 被告人Xは、実父が所有し居住している家屋に放火しようと企て、和室の畳、同室から玄関までの中廊下、玄関板張り床に灯油を散布しました。
 そして玄関前の屋外で、火を点けた新聞紙を振りかざしたところ、通行人に新聞紙を叩き落とされて火を消し止められました。

 ちなみに、Xの立っていた場所と灯油を散布した玄関板張り廊下とは、約2.5mの距離があり、Xは新聞紙を叩き落とされるまでの間、終始本件家屋に背を向けて立っていました。
 また、新聞紙を叩き落とされた時点では、新聞紙の火はほとんど燃え尽きていました。

 Xは現住建造物等放火未遂罪(刑法112条)に問われましたが、弁護側は、放火の実行の着手がないため、予備罪(同113条)にとどまると主張しました。

 結果は同じ放火の失敗ですが、放火の実行に着手していたと認められれば、未遂罪が成立し、既遂罪と同様に重く罰されます。
 反対に、放火の実行の着手がなかったとして予備罪が成立すれば刑も比較的軽く、情状による刑の免除も認められるのです。

 千葉地裁はXに現住建造物放火予備罪を成立させました。

 裁判所はまず、灯油の揮発性の低さに触れ、Xの行為以外にこの灯油に引火する要因がなかったと指摘しました。
 したがって、居宅内に灯油を散布しただけでは、具体的な焼損の危険性は発生しないとしたのです。

 灯油散布後のXの行為については、屋外で着火した新聞紙を振りかざした時点で灯油を散布した以上の危険が生じているとしたものの、灯油を散布した玄関板張り廊下と新聞紙の着火場所とは2.5m以上離れており、そのままでは新聞紙の火を灯油に着火できる位置関係にはないと考えました。
 ここから灯油に着火するには、一度ある程度の距離を引き返すか、新聞紙を後ろに放り投げるなどの新たな挙動に出る必要がありますが、Xは終始居宅に背を向けて立ち、灯油に着火するような挙動にも出ないうちに、Xを取り巻いていた近隣住民の1人に新聞紙を叩き落されています。
 この状況に、小雨が降り、Xの背後(自宅方向)から風が吹いていた当時の気象状況を併せると、Xの行為から居宅を焼損するような具体的危険の発生を認めるのは困難だと考えました。

 以上より、Xの行為は現住建造物等放火の実行の着手にあたらないとしたのです。

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