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意図的過剰行為と防衛の意思

~大阪高裁平成11年10月7日判決~

 相手から差し迫った不当な侵害(急に殴られるなど)を受けた場合、それを排除するためにやむなく反撃に出ることを「正当防衛刑法36条1項)」といい、こうした行為については罰しないとされています。
 しかし、この反撃が度を越すと「過剰防衛同条2項)」になり、その余分だった部分に関しては刑を科されることになります。

 これらの防衛行為を認める際は、それが「防衛の意思」、すなわち身体等を守る意思で行われたことが前提になるのですが、侵害に対する反撃行為が「度を越した」程度ではなくあまりに過剰であった場合は、はたして「防衛の意思があった」といえるのでしょうか?

 被告人Xは、前々からシンナーの濫用を断ち切れないでいる長男Aについて深く悩んでいました。
 Xが一人暮らしのA宅を訪れたところ、Aが再びシンナーを吸い始めたことに気付き、XはAに入院を勧めます。
 しかしAは耳を貸そうとせず、その場にあったシンナーを持ち帰ろうとしたXに襲い掛かってその頸部下部付近を両手で押さえつけたのです。
 しかも「親よりもシンナーの方が大事だ」などと罵倒したため、Xは大変憤慨するとともにAはもう立ち直れないと絶望して、とっさにAの殺害を決意しました。
 Xは、手探りで凶器を探すと右手に触れたガラス製の灰皿を掴み、その周縁の角ばった部分で殴打できるよう握り直して、立ち上がるとAの頭部を約10回にわたって強打しました。
 Aは頭から血を流して仰向けに倒れ、XはそのAの頸部を電気コードで締め付けて窒息死させました。

 原審は、殴打行為については防衛の意思ありとして過剰防衛を認めましたが、電気コードによる締め付け行為については防衛の意思等を欠くとして、両行為全体では結局過剰防衛を成立させませんでした。
 検察官・弁護人双方がこれを不服として控訴しました。

 大阪高裁は原審を破棄し、自ら判断を下します。
 一般に、差し迫った不正の侵害に憤慨して反撃することが防衛の意思の否定に繋がるわけではないが、侵害を受けた機会をとらえ、侵害の態様や程度等に比べて著しく過剰な結果を生じさせようと意図して反撃に出た場合には、そこに防衛の意思はないと考えました。
 そのうえで、Aの侵害行為の態様や程度、これに対するXの反撃の意思の内容、その反撃の態様・程度等を考えると、Xの灰皿による殴打行為は、Aからの侵害を排除するためのものとしてはあまりにも過剰である上、Xは確定的殺意をもって行為に及んでいると認定。
 これは先に述べた専ら相手を攻撃する意思でなされた「侵害の機会をとらえて著しく過剰な結果を意図した反撃」であり、もはや防衛の意思はないとしました。
 以上の理由から、Xの灰皿による殴打行為に過剰防衛を認めた原審には事実誤認があると指摘し、Xに殺人罪(同199条)を成立させました。

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