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傷害致死と殺人の共同正犯

~最高裁昭和54年4月13日決定~

 当初は、数人で被害者に暴行や傷害を加える計画であっても、共犯者の1人が暴走して被害者を殺害してしまうこともあります。
 1人が引き起こした殺人結果に対し、他の共犯者はどのような責任を問われるのでしょうか。

 被告人X(暴力団組長)、Y(同組員)ら7名は、組の資金源の1つである風俗営業に、巡査Aが強硬な立入調査をしたことに憤慨し、Aに暴行・傷害を加えようと共謀しました。
 Xらは、派出所前の路上に押しかけAに挑戦的な罵声や怒号を浴びせます。
 Aがこれに応答したところ、Yがその言動に激昂。
 Yは未必の殺意(「相手が死んでも構わない」という意思。殺意と同視される)をもって、小刀でAの下腹部を1回突き刺し、失血死させてしまいました。

 1・2審は、Xら7名の行為は「殺人罪(刑法199条)の共同正犯(共同で犯罪を実行したとして全員に実行犯同等の責任を認めること。同60条)」に該当すると考えました。
 しかし、刑法上、故意なく行った重い犯罪に関しては刑罰を加えることができないため(同38条2項)、暴行または傷害の意思しかなかったY以外の被告人ら6名に関しては、「傷害致死罪(同205条)の共同正犯」を成立させたのです。

 これに対しX側は、殺意のないY以外の共犯者に殺人罪を成立させるのはおかしいと主張し、その罪責を本人らの認識の範囲(暴行罪や傷害罪)に合わせるよう求めて上告しました。

 最高裁は上告を棄却。

 殺人罪と傷害致死罪の違いは「殺意の有無」1点のみで、その他の要素(被害者の死亡等)は全て同じであるため、Yが殺人罪を犯せば、客観的には、暴行・傷害の共犯者であるXら6名も「殺人罪の共同正犯」を実現したように見えると指摘しました。
 しかし実際には、Xら6名に殺人罪という重い罪に対する共同正犯の意思がなかったわけですから、彼らに重い「殺人罪の共同正犯」を成立させ、刑のみを軽い「傷害致死罪の共同正犯」とするのは誤りであって、結論的には両罪の重なりのうち軽い方である「傷害致死罪の共同正犯」を成立させるのが適当であると確認しました。
 ただ、X側は原審の判断に誤りがあると主張して上告していましたが、原審はXら6名につき、「殺人罪の共同正犯」に「該当する」とは言っていても、殺人罪の共同正犯が「成立する」とは言っていません。
 厳密に言えば原審判決自体には誤りがなかったため、上告は退けられることになったのです。

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