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「騙されたふり作戦」受け子無罪判決

 オレオレ詐欺のような特殊詐欺で、おかしいと感づいた被害者が、警察と連携して「騙されたふり」をして、現金を受け取ったいわゆる受け子が詐欺罪の共同正犯として起訴された裁判で、福岡地方裁判所は無罪判決を出しました。
 判決によれば、Aが被害者を騙し(欺罔行為といいます)、被害者が騙されたふりをしていたため、Aが翌日にBに受け取りを指示し、Bがさらに翌日に現金が入ったと仮装したバックを受け取ったところで逮捕されたというもので、被害はありませんから、詐欺未遂罪とし起訴されたものです。

 共同正犯とは、簡単に言えば、共犯者同士が意思を通じて犯罪を遂行する場合、犯罪の一部しか実行しなかった者にも全部の責任を負わせるものです。
 例えば、甲と乙が共謀して、女性を強姦しようとした場合、甲が被害者に暴行をし、甲と乙が姦淫した場合乙は暴行に関与しなくても、乙を強姦罪とするものです。
 この共同正犯がなければ、暴行をしていない乙は、抗拒不能の女性を姦淫しただけとして準強姦罪にしかならなくなってしまいます。

 さらに、「承継的共同正犯」という概念があります。
 先の強姦の事例でいえば、これは、甲が、女性を強姦しようとして被害者に暴行をし、その後現れた乙と意思を通じ、共に姦淫した場合の乙を強姦罪とするものです。先の事例と共謀が成立した時期が異なるのです。
 平成24年の最高裁判例が、傷害事件での承継的共同正犯を否定しましたが、それは、傷害特有事案で、承継的共同正犯それ自体を否定したものではないと思われます。

 ところで、詐欺罪は、欺罔行為⇒被害者の錯誤⇒錯誤に基づく財物の交付という流れで犯罪(既遂)が成立します。
 先の判決の事実認定によれば、Bは欺罔行為には何の関与もしていませんし、その段階でAとの共謀もなく、財物を受領しただけです。
 しかも、財物の受領は、強姦罪の姦淫行為と違って、犯罪の実行行為とはいえず、Bによる犯罪の一部実行も認めがたいとされています。先の強姦罪は、暴行行為と姦淫行為という二つの実行行為がありますが、その点で詐欺は違うのです。

 つまり承継的共同正犯を認めたとしても、Bを共同正犯とすることには無理があったと思います。
 先の24年判決の千葉裁判官は補足意見で、詐欺罪について「共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち、犯罪が成立する場合があり得る」としています。

 しかし、これも、既遂、つまり被害者が錯誤に陥って財物を交付したことを前提としています。本件の場合の犯罪の結果である「詐欺未遂」は、被害者が感づいた時点で完成しており、Bが「詐欺未遂」に因果性をもつことはありません。
 つまり「犯罪の結果について因果関係を持つ」ことはなく、その意味でも、詐欺未遂罪の共同正犯とすることには無理があるかもしれないと思います。

 ただ、承継的従犯(正犯を助けた者)が成立する可能性は十分にありますし、さらに未遂の場合の承継的共同正犯をどうするのか、これらの点で上級審の判断がまたれます。

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