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代理出産

 今年(2005年)5月、米国での代理出産で生まれた双子を自らの実子として届出をした夫婦が、届出を不受理とした市役所の処分取り消しを求めた家事審判で、大阪高裁が夫婦の申し立てを却下した家裁決定を支持、即時抗告を棄却すると決定したことは記憶に新しいところです。裁判所は、代理母出産について、「代理母の契約は公序良俗に反し無効」とする厳しい判断を示しました。
 皆さんは代理出産について、どのようにお考えですか。この問題は、性あるいは生命倫理にかかわるだけに、議論も重く錯綜したものとなり、ともすれば敬遠されがちです。しかし、「私たち二人の子どもがほしい、そして育てたい」と強い願望を持つ夫婦が多数存在することも、事実です。
 今回は、代理出産の現状を確認し、その問題点について考えてみたいと思います。

代理出産の問題点

 代理出産には、

  1. 夫婦の体外受精卵を他の女性に移植し、出産してもらう方法(英語で「ホストマザー」と呼ばれるもの。配偶者間体外受精
  2. 夫の精子を妻以外の女性に人工授精して、妊娠・出産してもらう方法(「サロゲートマザー」と呼ばれるもの。非配偶者間体外受精

の2つの方法があります。

 1. の方法は、体力的に妊娠・出産に耐えられない妻や、卵子・精子に問題がないのに妊娠しないような場合、また、2. の方法は、子宮を摘出したりして卵子が期待できない妻が子どもを望む場合にとられる方法です。
 代理出産が当事者間の代理母「契約」に基づくものである以上、いずれの方法を取るにせよ、他人が批判するのはお門違いということもできます。

 それにもかかわらず代理出産が批判されるのはなぜでしょうか。

・ 倫理的理由

  1. 反自然的方法であり、性行為とそれに先立つ男女の関係を伴わない「ヒトの製造」である
  2. 代理出産が報酬で請け負われることにより、女性の子宮を商品として利用することになる

・ 関係者の福祉と利益に関係する理由

  1. 生まれてきた子に障害があったような場合、生まれた子どもに不満であるとして、依頼者が引取りを拒否することが考えられる(特に 2. の方法の場合)
  2. 代理母から引き離される子ども、子どもを取り上げられる代理母の精神的ダメージが無視されている
  3. 妊娠・出産は出血多量・子宮破裂等の危険を伴うため、他人の生命にかかわるようなリスクを他人に負担させる契約は認めるべきでない

・ その他、社会的・思想的理由

  1. 代理母となる女性の属性(白人代理母の方が黒人よりも報酬が高いなど)が問題となり、人種・学歴等による差別につながる
  2. 代理母が一般に承認されるようになれば、女性に出産に対する義務感が生まれる。また「他人を利用しても出産すべきである」という出産義務の押しつけとなる

などの理由が挙げられています。

各国の法制度

 日本に代理出産を規制する法律はなく、医師の自主的規制に委ねられてきました。2003年4月、厚生省厚生科学審議会生殖補助医療部会は、法律上の夫婦に限定して、AID(第三者の精子を妻の胎内に人工的に注入する方法)と他の女性の卵子提供による体外受精及び余剰受精卵の使用を認めました。したがって、ここでは代理出産を法律上禁止されているわけではありませんが、積極的に認められてもいませんでした。
 さらに、2004年12月に開催された厚生科学審議会の「生殖補助医療技術に関する専門委員会」は、「人を生殖の手段として扱うものであり許されない」として代理出産を禁止し、将来法律で規制する方針を打ち出しました。

 米国でも、国レベルの法規制はおかれていません。しかし、1989年の「技術援助により懐胎した子の法的地位に関する統一法」において、

  1. 事前に裁判所が契約を審査するという条件付で認める
  2. 禁止

のいずれかを、各州に選択させる、という方法を取りました。日本人夫婦が渡米して斡旋を受け、代理出産に成功したケースは10例以上報告されています。しかし、十数州では禁止する立場が支持されています。
 ドイツでは1989年に制定された「養子斡旋・代理母斡旋法」などによって有償・無償問わず禁止、フランスでは1994年制定の「生命倫理法」により、やはり有償・無償ともに禁止しています。
 制限つきで認める国は、イギリスが1990年の「ヒトの受精及び胚研究に関する法律」で営利的代理母契約を禁止、スウェーデンが「IVF法」により同じく営利的契約についてのみ禁止しています。
 また、「国家が生殖に介入すべきでない」として、法整備自体を疑問視する意見もあります。

ガイドラインの整備

 法による規制がなされない場合、医師や関係機関がガイドラインを定めて自主規制することが考えられます。たとえば、代理出産を成功させた長野県の「諏訪マタニティークリニック」根津八紘院長が定めるガイドラインの主な事項は、次のようなものです。

  1. 依頼者は子宮のない女性に限ること
  2. 自分の子宮を貸して代理出産を行なう女性は、すでに子どものいる既婚者に限り、生まれた子どもに対していかなる権利も主張しない旨、誓約書にサインすること
  3. 依頼側の夫婦と、請け負う側の夫婦は、身内に限り、4人一緒に来院して、根津院長の事前説明を受けること
  4. 出産後、ただちに子どもを依頼側夫婦に引き渡して養子縁組をすること、など

 さて、皆さんはどうお考えでしょうか。

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