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何もしないことが殺人罪になる!? - 不作為の罪 第六回

第6回 判決

検察官の主張

 被告人・新興宗教団体「水光の会」代表・自称教祖は、2007年7月○日、被害者の長男伸治被告(42歳)=保護責任者遺棄致死罪で分離公判中=と共謀して、金銭欲と自己保身から、脳内出血で・・県・・市の病院に入院していた被害者(当時73歳)を連れ出し、同市駅前のビジネスホテル・Aに移した。
そして、死亡する恐れを知りながら、医師による医療行為や水分補給など必要な措置をせずに、手をかざし光をあてるという同団体特有の行為「ビーム治療」のみを行い、翌○日ごろ、痰を気道に詰まらせ窒息死させた。

罪名及び罰条

殺人 刑法199条

弁護人の主張

 被告人は、喜八をホテルのベッド上に安静に横臥させたのみであって、殺人の実行行為に当たらない。また、被告人にあえて信者・山崎喜八を殺害する動機はなく、殺人の故意は認められない。
また、仮に殺人の実行行為に当たるとしても、ビーム治療は多数の信者に効果が認められている正当な治療行為であり、正当行為(刑法35条)として違法性を阻却する。
よって、被告人は無罪である。

判例要旨

最高裁判所決定 平成17年7月4日
(小説の内容にしたがって、読みやすく加筆削除してあります)

被告人・教祖の上告を棄却する。
被告人は、自己の責めに帰すべき事由により、被害者・喜八の生命に具体的危険を生じさせた上、被害者が運び込まれたホテルにおいて、教祖を信奉する被害者の長男・伸治から、重篤な被害者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。
その際、被告人は、被害者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに被害者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである

 それにもかかわらず、未必的な故意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置して、被害者を死亡させた教祖には、不作為による殺人罪が成立する。
 なお、殺意のない伸治には、保護責任者遺棄致死罪が成立する。

(了)

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