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無罪推定―3通の起訴状 第五回

一、判決

判 決

被告人  石井直也

主 文

被告人は、本件各公訴事実について、いずれも無罪。

・・・以上の検討によれば、山本弘子に係る殺人被告事件については、被告人が同事件の犯人であると認めるには合理的な疑いが残り、竹下みち江に係る殺人被告事件については、他殺の証明がなされておらず、その事件性にも問題があるところ、仮にこれが肯定されるとして、被告人が同事件の犯人であることを積極的に推認する証拠・事実は存在しない。
  さらに、藤沢加奈子に係る殺人被告事件についても、被告人が同事件の犯人であることを積極的に推認する証拠・事実は存在せず、結局、被告人に対する本件各公訴事実についてはいずれも犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。
よって、主文のとおり判決する。

二、刑事訴訟法336条と無罪推定の原則

刑事訴訟法336条【無罪の判決】

 被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
  本条前段の「被告事件が罪とならないとき」とは、たとえ公訴事実の存在が立証されたとしても、犯罪として成立しない場合をいう。例えば、人を殺したが正当防衛が認められ、殺害行為違法性が阻却された場合などである。
また、後段の「被告事件について犯罪の証明がないとき」とは、裁判官が被告事件の存在について合理的な疑いを超える程度の心証を得るに至らなかった場合、またはその心証があっても自白に補強証拠がない場合のことをいう。
刑事裁判における鉄則である、「無罪推定の原則」または「『疑わしきは被告人の利益に』の原則」を定めたのが、この後段部分である。

推定無罪の原則

無罪推定の原則とは、「刑事上の罪に問われている者は、いかに疑わしいと思われる場合であっても、憲法及び法律の諸規定に従った裁判において有罪の立証があるまでは無罪と推定される」という原則である。
刑事訴訟においては、国家から訴追権を与えられた検察官に、犯罪事実についての挙証責任がある。刑罰権の行使を求める国家こそが犯罪事実を立証すべきであり、意に反して訴追された被告人が自己の無罪を積極的に立証する責任を負わされるのは酷だからである。
そこで、刑事被告人は、いかに疑わしいと思われる場合であっても、適正な手続によって有罪が確定するまでは無罪が推定されるのである。

この原則は刑事裁判における普遍的な鉄則である。
世界人権宣言(1948年12月10日第3回国際連合総会において採択)は第11条において、
1項 犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。
と規定している。
また、国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)(1966年12月16日国際連合第21回総会において採択)も、第14条において、
2項  刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。
と定めている。

上記判決の通り、平成19年3月19日、O高等裁判所は無罪(求刑・死刑)を言い渡した1審・K地方裁判所判決を支持して検察側の控訴を棄却した。
4月2日、O高等検察庁は最高裁への上告を断念すると発表。
翌3日午前0時、石井直也の無罪が確定した。

(了)

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