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児童虐待防止法

 秋も深まりつつある好天の土曜日。
 近くの公園のグラウンドでは、幼稚園の運動会が開かれています。軽快な曲をバックに、元気に走り回る園児たち 。
 そんな子供達がいる一方で、陰惨な虐待を受けている子供たちがいるのも現実です。
 それどころが、この園児達の中にも、家に帰れば親に虐待されている子がいるかもしれないのです。

 厚生省によると、平成10年度中に全国の児童相談所が受けた虐待の相談は過去最悪の6,932件。平成2年度の6倍の数字です。
 平成10年度に虐待で死亡した児童は41人でしたが、そのうち33人については児童相談所が事前に把握しておらず虐待の事実が判明したのは死後のことでした。これをみても表面化していない虐待が相当存在することが推測されます。

 こうした児童虐待が多発している事態を受けて、先ごろ、児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という)が成立しました。超党派の議員立法で、提出からわずか6日のスピード成立でした。この問題の児童虐待の深刻さがうかがえます。

児童虐待とは

 では、そもそも、子供の虐待とは何でしょうか。

 児童虐待とは、親や親に代わる養育者が子どもに対して行う

  1. 身体的暴行
  2. 性的暴行
  3. 養育の拒否や放置
  4. 心理的虐待

に分類されます。

 1. の身体的暴行とは、子供に傷あとが残ったり、生命が危うくなるようなけがをさせたり、体に苦痛を与えることです。例えば、たたく、ける、つねる、頭をなぐる、しばる、火のついた煙草を押しつけるなどです。

 2. の性的暴行とは、性的ないたずらや性行為をすることです。

 3. の養育の拒否や放置とは、子供に適切な衣食住の世話をしないなど、子どもをほったらかしにしておくことです。 例えば 食事を与えない、衣服をかえない、医者にみせない、危険な場所に放っておく、家に入れない、家に閉じ込めるなどです。

 4. の心理的虐待とは、心理的いじめのことで、子供を情緒不安定にさせたり、心に傷をつくることです。例えばまったく子供の存在を無視したり、おびえさせたり、ば声をあびせたりすることなどです。

 児童虐待防止法は、こうした4類型に分けて定義した上で、児童虐待を禁止しています(同法2条3条)。

見過ごされやすい虐待

 「でも、しつけのために、子供をつねったりすることも虐待なの?」と疑問に思う方もおられるかもしれません。

 児童虐待の問題の1つがここにあります。

 親によるしつけか、児童虐待かの判断は、なかなか外部からみてわかるものではありません。

 このため、見過ごされ、発見が遅れることも多い上、親権の濫用に基づく、親権喪失という民法上の処分(834条)がとられることも少ないのです。

 しかし、しつけだからといって、明らかに度を超える行為が許されてはなりません。

 児童虐待防止法は、親権を行うという名目で暴行罪傷害罪その他の犯罪についてその責任を免れるものではないとしています(同法14条)。
 たとえ親権を振りかざしても「虐待」を正当化できないことが法的に明確になったのです。

 このように児童虐待はしつけとの区別がつきにくく、人目を避けて行われがちなため、DV(ドメスティック・バイオレンス)と同様、家庭の外部にいる人には見えにくく、悲惨な結果が生じてはじめて実態が明らかになることも多いという特徴があります。

 表面化することなく、子供が著しい被害を被ってしまうことを防がなければなりません。児童虐待防止法は、その要請にこたえて、子供に接する機会の多い職種の人々(教職員や医師・弁護士など)に早期発見の努力を促すとともに、国民一般にも児童虐待を発見した場合に通告すべき義務を課しています(同法5条7条)。

児童相談所の権限・機能を大幅に強化

 児童虐待が発見された場合、真っ先に、子供の保護を図る必要があります。 その上で、虐待の実態を調査する必要があります。

 これまで実態調査には困難がありました。立入調査には、虐待の事実が明らかなのに、保護者が児童の施設入所に反対している場合に限られていたからです。

 そこで、児童虐待防止法では「虐待の恐れ」があれば、通告・送致を受けた児童相談所長が、子供を一時的に保護できること(同法8条)、都道府県知事が立入調査を命じることができること(同法9条1項)、いずれの場合も、場合によっては、警察官の援助を求めることができること(同法10条)が規定されました。

 被害児童を守るだけではなく、子育てが未熟な保護者や身勝手な保護者の指導も虐待防止に欠かせません。児童虐待防止法では、児童虐待を行った保護者は都道府県が設置する児童家庭支援センターの職員等によるカウンセリングを受ける法律上の義務があると規定されました(同法11条1項)。

 また、子供が施設へ入所といった措置がなされた場合、面会の際に新たに虐待がなされたり、落ち着いた子供の心理状態が再び悪化することを防止すべく、施設の長などは、保護者と子供との面会などを一定期間、制限することができるという規定も作られました(同法12条)。親権の事実上の一時停止が認められた形といえます。

増える虐待

 児童虐待は、各地の相談件数でみても、10年ほど前と比べて10倍に迫る勢いで増加しており、しかもその伸び方は加速度的です。

 近頃、人間関係が希薄になり、子供を抱える親、とくに母親が相談すべき相手もなく孤立しがちなことも一因のようです。

 行政による児童虐待防止法の運用だけに頼るのでなく、民間医療機関、ボランティア団体を中心とする市民社会のバックアップが不可欠と思われます。

 この法律は、平成12年11月1日から施行されます。

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