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IR実務「1年で株価を4倍にしたIR(3)」

4.中堅企業のためのIR実務

(1) 大企業と中堅企業では大違い

 トヨタやキヤノンといった、知名度もあり、IR人員だけでも20名近くかかえている一部上場の大企業と知名度の低い中堅企業、上場したばかりの新興企業では、IRの理念は同じでも投資家に対するアプローチの手法は大きく異なる。

 大企業は頻繁に個人投資家向け説明会を行ったり、手分けして国内外の機関投資家廻りを行ったりできるが、中堅以下の企業では大企業のような予算や人員をかけられない。実際には限られた2、3名の人員が他の仕事も兼務しながらIRを行うケースが多い。

 つまり、限られた経営資源で効率的なIRを行わなければならないのである。それだけに中堅以下の企業の方が、よほど計画的なIRが求められていると言える。そのためには何よりもまず自社の経営理念や中長期のビジョンを踏まえた、具体的なIR目標を定めることである。

(2) IRの目標

 従来は株価を目標にすることはタブーで、株主数や株式売買高といったものを目標にすることが多かった。それは、IRはあくまで正確な情報をタイムリーに投資家に提供することで企業を正しく理解させ、評価してもらうもので、IRで株価を上げようとするのは正しくない、目標にすると株価優先の歪んだIRになる、という考え方に基づいている。

 例えば株価に悪い影響を与えると思う情報は、ディスクロージャーしないといったことが起こりうるからである。正論である。ただし経営者が同じ費用を使ってIRを行うなら、少しでも株価に良い影響を与えたいと考えるのは当然であり、実際アメリカではIRの有効性を計る尺度として株価を用いられることが珍しくなくなってきている。IRが企業価値の極大化を目指すものなら、当然株価がその目標になるという考え方である。

 業績あっての株価であり、IRだけで株価は決まるものではないが、IRの目標として数値である株価を設定することは、非常に分かりやすく、アメリカでは当たり前になりつつある。私が現在担当している会社でも株価をIRの目標に設定しており、社内には時期と目標株価を公表している。

(3) IRの訴求対象者

 「中堅企業の場合には、機関投資家に焦点を合わせたIRを行うべきである」これが私の結論である。個人投資家重視の世の中の流れとは逆行するようであるが、株価のでき方、限られたIR資源を考えると自明である。

 株価も家屋の建築と同じで基礎・土台がしっかりしていなければ、決して高く積み上がらないし、たまたま積み上がっても一時的なものにとどまり決して長続きしない。その基礎・土台に相当するのが、企業のフェアーバリュー(適正価値)を計算できる機関投資家であり、具体的にはアナリストやファンドマネージャーである。中長期に亘って自社株を保有してくれる機関投資家を少しでも増やすことが、適正株価到達への唯一かつ最短のコースである。

 私自身も、さまざまなIR手法・ツールを駆使して、昨年1年間で担当企業の機関投資家比率を10%以上アップさせ、株価を4倍にすることができた。社長と私のたった2人によるIRで、当初の目標をはるかに上回る結果を出せたことで、中堅企業でも明確な目標と戦略的な手法により、効果的なIRが実践できることを証明できたと思っている。

(4) IRツール

 ITの進展により、現在ではインターネットを含めさまざまなIRツールが出現しているが、ホームページの財務資料や投資指標だけを見て何百万円、何千万円単位の投資を決断する投資家はまずいない。

 そう言う意味で投資家に対しては「会社説明資料」や「決算説明資料」等がもっともポピュラーで、身近なものである。そのため証券会社系や印刷会社系のIR会社は、盛んに美しい、見栄えの良い高価な資料の作成を提案する。無意味とは言わないが、本末転倒である。アナリストやファンドマネージャーはよく「立派な資料など必要ない。必要なことが網羅されているのであれば粗半紙でもよい」と言っている。

 見にくいのは困るが、要は資料に書き込む内容が大事なのである。一般情報と強み・弱みといった独自情報をバランスよく折り込み、個性的な資料作りを目指すべきである。美しい資料作りのためにお金と労力を費やすぐらいなら、本業のほうに少しでもそのお金を使うべきである。

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