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耐震強度偽装事件における損害は誰が負担すべきか

1、なぜ問題になっているのでしょうか。

 平成17年後半に発覚した、分譲マンションなどの耐震強度偽装問題は、設計者や売主を初め、施工主、確認検査機関、自治体も関係した社会問題となったにとどまらず、これら関係者の刑事事件としても注目を浴びています。

 しかし、マンション住民にとっては、自治体から使用禁止勧告・命令を受け退去したものの、今後住居をどう確保していくのか、経済的負担をどのように解決していくのか等、厳しく不安な状況が続いています。国や自治体も被害住民に対する公的支援を打ち出していますが、住民の重い負担を解消できるレベルのものではありません。

 今回は、全国規模で発生した損害を、誰がどのように負担すべきなのかを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

2、事件の経過

 平成17年11月、国土交通省より、東京、千葉、神奈川の一都二県のマンション20棟とホテル1棟で、建築確認の際に偽造された構造計算書が使用されていたことが発表されました。このうち2棟については建築基準の3割~7割程度の強度しかなく、震度5強の地震で倒壊する可能性があることが指摘されました。

 さらに、問題となっているマンションの施工が同一業者に集中していることが判明し、構造設計書を偽造していた設計事務所が特定の販売会社の委託を受けていたこと、問題物件のほとんどの建築確認検査をした指定確認検査機関が設計事務所に必要書類の提出を求めないままに検査をしていたことも明らかになりました。その後、他の物件にも倒壊のおそれがあることが次々と判明して、平成17年12月までに17都道府県の70件に耐震強度偽装があったことが確認されました。

 この問題に関係している不動産会社などは、当初入居者や所有者への補償を検討していましたが、施工主である建設会社が12月に破産し、翌18年2月には売主である不動産会社も破産するに至りました。

3、関係会社の損害賠償責任

 この問題では、関係当事者にはどのような責任が生じるのでしょうか。

 まず、欠陥のある物件を販売した売主には瑕疵担保責任(民法570条)が生じるため、マンションの購入者は、売主に対し、損害賠償を請求することができます。

 しかし、今回の事件では損害額が大きすぎるため、売主や施工主の支払い能力を超えています。さらに、設計、施工の建設会社と売主の不動産会社が破産したため、その財産は破産管財人の管理下に置かれることになりました。しかし、住民の損害賠償債権が配当の対象となったとしても、債権額による按分比例額しか受けられず、十分に賠償を得ることは困難なのです。

4、国や自治体の対応

 事件発覚直後、国や地方自治体も住民の救済に乗り出し、東京都が公営住宅の有償あっせんの緊急措置を、12月には政府がマンションの解体費や建替え費、家賃の補助、ローン支払いや固定資産税の減額などに対する約50億円の公的支援を決定しました(国と自治体で同等負担)。

 それでも、建て替えにより住民が新たに負担することになる費用は、国交省の試算では1世帯当たり2,000万円程度とされ、既存の住宅ローンの残債務と併せると、住民は非常に重い負担を負うことになります。

 当初、国交省は、助成額に見合った損害賠償を売主から得ることを公的支援の条件としていました。ところが、平成18年9月に販売会社(売主)の破産手続きに伴ってマンション住民の届け出た債権が一部認められる一方で、自治体への分配は行わないという方針が破産管財人により決定されたために、国交省は自治体からの助成を減額する方針を表明しました。住民にとっては、依然厳しい状況となっています。

5、国家賠償

 以上のように、住民は施工主・売主等からの十分な賠償を期待することはできず、また国や自治体の支援策も負担の一部を補助するに過ぎません。では、住民は国や自治体に対し賠償責任を追及することはできないかが問題となります。

・国家賠償法1
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

 平成18年6月27日、川崎市の被害住民が、元建築士や川崎市などを相手に、総額6億円以上の損害賠償を求める訴えを提起し、現在この訴訟は東京地裁で審理されています。元建築士の賠償能力を考えると、住民にとっては川崎市に対しての請求が認められるかどうかが重要なポイントになります。

 この問題を考えるにあたっては、平成17年6月24日の最高裁第2小法廷の決定が参考になります。この事件は、マンション建設に反対していた周辺住民が、「本件建築物が建築されることにより、生命、身体の安全が害される」との理由で横浜市に対して損害賠償を請求していたもので、民間の指定確認検査機関が行っていた建築確認について、自治体(市)が責任を負うかどうかが争点となりました。

 最高裁は、「建築主事による確認事務は、地方公共団体の事務であり(建築基準法4条地方自治法2条8項)、同事務の帰属する行政主体は地方公共団体である」「指定確認検査機関の確認を受け、確認済証の交付を受けたときは、当該確認は建築主事の確認とし、当該確認済証は建築主事の確認済証とみなす(建築基準法6条の2第1項)」ことから、民間の指定確認検査機関による確認の事務であっても、建築主事による確認に関する事務の場合と同様に地方公共団体の事務である。したがって「確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の当該処分又は採決に係る事務の帰属する国又は地方公共団体に当たる」という決定を下しました。

 つまり、建築確認事務は主体が、民間の検査機関であっても自治体であっても「行政行為」なのであり、国家賠償法1条の「国または公共団体の公権力の行使」として争うことができるということです。したがって、同条の「故意又は過失」「違法性」などの要件が充たされれば、地方自治体は損害を賠償する義務を負うことになります。

6、このように、企業の賠償能力を超えるほど莫大な損害額が発生した場合、その責任を国や自治体に対して追及する可能性もあります。しかし、このような考え方を耐震強度偽装事件にもそのまま当てはめてよいものでしょうか。

 一部の悪質な業者による違法な行為により生じた損害を国民や住民の税金で填補することには納得がいかない、という意見もあります。また、国の公的支援についても、特定の住民に対し自然災害時以上の厚い保護を与えるのは不公平である、との意見もあるようで、納得のいく解決になっていないようです。

 さて、あなたは重い負担を課せられている住民をどのように救済すべきと考えますか。

 アンケートにお答えいただいた上、ご意見もお聞かせください。

住民に生じた損害の救済は

  • あくまでも損害を与えた企業の賠償の範囲内で考えるべきある
  • 国や地方公共団体の公的支援によるべきである
  • 国や地方公共団体がその損害を賠償すべきである

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