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「知らなきゃ損する!面白法律講座」第445号

                      http://www.hou-nattoku.com/
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     □□   知らなきゃ損する!面白法律講座   □□

             週1回発行(月曜日)


2008年 8月 4日                         第445号
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 発行部数: 24,618部(まぐまぐ 18,008部、melma! 6,394部、Yahoo! 216部)
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■ 目 次
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  □ 小説で読むおもしろい判例
    「父と娘の物語 ― ある親殺し」 第一回

  □ もしあなたが裁判員に選ばれたら?
    「その8~冒頭手続~」

  □ なっとく! 法律相談 第434回
    「有給休暇の有効期限は会社側で決められる? 」
    http://www.hou-nattoku.com/consult/750.php

  □ 法律クイズ 第119回 【問題】
    「引抜き行為は法的に許される? 」
    http://www.hou-nattoku.com/quiz/0226.php

  □ 法律クイズ 第119回 【解答】



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■ 小説で読むおもしろい判例
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  「父と娘の物語 ― ある親殺し」 第一回

                             神村 春生


 『1. ある夫婦の会話』

   夫:37歳、会社員。某私立大法学部卒。
   妻:35歳、会計事務所職員。


 妻  (新聞を読みながら)見て見て、またヒッキー(*注1)がお父さん
    を殺してる!― 最近、家族同士の殺人事件が多いと思わない?

 夫  そういえば、祖父さんが息子一家皆殺しにしたなんてのもあったな。
    元気だよなぁ。

 妻  不謹慎なこといわないでよ。・・・親が息子を殺すなんて、きっと
    よほどの事情があったのよ。でも、子どもが親を殺すのは許せない
    わ。

 夫  どうして? ひどいのはどっちも同じじゃないの?
    最近、通り魔とかの無差別殺人もよく起きるじゃないか。これは逆
    に、会ったこともない他人を殺すわけだろ、「誰でもよかった」と
    か言ってさ。こっちのほうが悪質とも言えるじゃないか。
    刑法では「人を殺した者は」(*注2)となっていて、被害者が親で
    あろうが子どもであろうが、アカの他人であろうが、関係ないんだよ。

 妻  そんなのおかしいわ。自分を生んでくれて、一所懸命育ててくれた
    親を殺すなんて、・・・そんな不恩義、人として許せないわよ。絶
    対、死刑にすべきなのよ!

 夫  (呆れて)古いんだよなー。以前はね、親を殺したら死刑か無期懲
    役しかなかったんだよ(*注3)。それだと、情状酌量で精一杯減
    刑しても執行猶予がつけられないから、実刑で、即、刑務所に行く
    しかないの(*注4)。
    だけど、殺されて当然の親だっているんだぜ。親殺しだからって重
    罪になるなんて、その方が理不尽じゃないか。だから、ある事件を
    きっかけに改正されたんだよ。

 妻  何よ、その事件って。

 夫  ひどい親父がいてさ、娘に子どもを5人も産ませて・・・

 妻  エー?!

 夫  そのうち娘が出て行きたいって言ったら逆上しちゃってさ、10日間
    も監禁して虐待したんだよ。

 妻  それって地獄よねー。で、どうなったの? そのまま娘を殺しちゃっ
    たの?

 夫  逆だよ。思い余った娘が、親父を殺しちゃったんだよ。

 妻  何も殺さなくたって・・・説得するとか逃げるとか警察を呼ぶとか、
    できなかったの?

 夫  そんな当たり前のことが通る親父なら、こんな事件にならないよ。
    結局、親も子どもも同じ人間なんだから、親が子どもを殺した場合
    も、子どもが親を殺した場合も、同じように扱われるべきだろ。そ
    れが一人の人間として、同じように尊重されるってことなんだよ
    (*注5)。

 妻  でも・・・やっぱりだめよ。親だもん。親を殺すのと、他人を殺す
    のは違うと思うわ。



 *注1 ヒッキー コモラーともいう。引きこもりのこと。

 *注2 刑法199条の文言。 

 *注3 刑法旧200条、尊属殺人罪。
     尊属等に対する殺人を重く処罰する同条の目的は正当であるが、刑
     の加重の程度が甚だしく、憲法14条1項に反するとして、平成7年改
     正により削除された。
    「尊属」とは、血族(血縁関係にある者)のうち、自分より上のも
     のをいう(父母、祖父母など)。しかし、刑法200条は、尊属だけで
     はなく配偶者の尊属に対する殺人をも処罰対象としていた。

 *注4 執行猶予(有罪であるが、刑の執行を一定期間見合わせること)は
     懲役3年以下の刑にしかつけられない。

 *注5 憲法14条1項(法の下の平等、平等原則)


                               (続く)



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■ もしあなたが裁判員に選ばれたら?
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 「その8~冒頭手続~」


  いよいよ今回から裁判員となったあなたが参加する法廷での手続となり
 ます。

  裁判長の「開廷します」の宣言の後、まず行われるのは“人定質問”で
 す。これは、被告人が人違いでないことを確認するための手続で、被告人
 の氏名、本籍、住居、生年月日、職業を裁判長が尋ねます。その回答が起
 訴状記載のとおりであることを確認してから、次の手続に進みます。

  次は“起訴状朗読”です。起訴状は、検察官が起訴のために裁判所に提
 出する書類で、被告人に関する情報のほか、検察官が裁判を求める事件の
 要点(公訴事実)が記載されています。これは例えば以下のようなもので
 す。

 「被告人は、平成○年○月○日、○県○市…において、△△(当時38歳)
 を殺害しようと企て、所携の金属バット(長さ約65センチメートル)で同
 人の頭部を殴打し、よって、そのころ、同所において、同人を頭蓋底骨折
 に基づく外傷性脳障害により死亡させて殺害したものである。…罪名およ
 び罰条、殺人、刑法第199条」

  起訴状の朗読が終わると、裁判長はその内容について、被告人と弁護人
 に意見を求めますが、その前に、重要な告知をします。“黙秘権の告知”
 です。
 
 「審理に先立って被告人に対して注意しておきます。あなたには、黙秘権
 という権利があります。この法廷で終始沈黙し、または、個々の質問に対
 して個別に答えを拒むことができます。何か話したいことがあればそれを
 話すこともできますが、この法廷で述べたことは、有利不利を問わず証拠
 として用いられることがありますから、そのことを念頭に置いて答えるよ
 うにしてください。」

  裁判長の言葉にもあるように、被告人は質問に対して回答を拒むことが
 できます。これは、たとえ罪を犯した者であったとしても、その者に対し
 て自分が有罪となるような供述を強いることはできないという思想から生
 まれたもので、憲法でも認められた被告人の権利です。裁判の冒頭でこの
 ような告知をしておくことで、被告人の人権が侵害されないように配慮し
 ているのです。

  この黙秘権の告知の後、被告人と弁護人が意見を述べます。俗にいう
 「罪状認否」と呼ばれるもので、ここで公訴事実を認める場合もあります
 し、そのような事実はないと主張したり、「殴ったのは事実だが、殺すつ
 もりはなかった」などと一部を認める意見を述べることもあります。
 この認否によって、裁判所は、争点を明確にすることができるわけです。

 ここまでの手続を“冒頭手続”といいます。次回からは、証拠調べに入ります。



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■ なっとく!法律相談 第434回
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 「有給休暇の有効期限は会社側で決められる? 」
 
 □相談□

  年次有給休暇の有効期限は会社によって自由に決められるのですか?
 私の会社では正社員は有給の時効は2年間。
 パート、アルバイトは1年間で残りは抹消されています。

                            (40代:女性)


 □回答□

  年次有給休暇制度は労働基準法39条に規定されています。この制度は、
 労働者が健康で文化的な生活を実現できるように、休日のほかに毎年一定
 日数の有給の休暇を労働者に保障するものです。
  この年次有給休暇は、労働者が(1)雇入れの日から起算して6ヶ月間継
 続勤務し、(2)全労働日の8割以上出勤すれば、法律上当然に発生します
 (39条1項)。
  また、パートタイマーなど、労働日や労働時間数が少ない労働者につい
 ても、所定労働日数に応じた日数の年次有給休暇が法律上与えられます
 (39条3項・労働基準法施行規則24条の3:下記の表参照)。

┌──────────────────────────────────┐
│ 週所定 │ 1年間の│   雇入れの日から起算した継続勤務期間    │
│労働日数│ 所定労働│6ヵ月│ 1年 │ 2年 │ 3年 │ 4年 │ 5年 │ 6年 │
│    │  日数 │   │6ヵ月│6ヵ月│6ヵ月│6ヵ月│6ヵ月│6ヵ月│
├──────────────────────────────────┤
│  4日 │169-216日│ 7日 │ 8日 │ 9日 │ 10日│ 12日│ 13日│ 15日│
│  3日 │121-168日│ 5日 │ 6日 │ 6日 │  8日│  9日│ 10日│ 11日│
│  2日 │ 73-120日│ 3日 │ 4日 │ 4日 │  5日│  6日│  6日│  7日│
│  1日 │  48-72日│ 1日 │ 2日 │ 2日 │  2日│  3日│  3日│  3日│
└──────────────────────────────────┘

  では、この年次有給休暇の有効期限はどうなっているのでしょうか。
  労働基準法115条は「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、
 災害補償その他の請求権は二年間、・・・行わない場合においては、時効
 によつて消滅する。」と定めています。
  そして、行政上(昭和22・12・15労働基準局長名で発する通達501号)及
 び実務上の解釈では、労働者の年次休暇権が115条の「その他の請求権」に
 含まれ、年休の発生から2年を経過するまでは時効消滅せず、繰越使用でき
 るとしています。つまり、法115条により年次有給休暇の有効期限は2年と
 されています。
  今回のケースでは、正社員の年次有給休暇の有効期限は2年となっている
 ので、問題ないでしょう。
  一方、パート・アルバイトの年次有給休暇の有効期限は1年とされている
 ので、この会社の定めは違法となります。


  [関連情報]
  ・退職直前に付与された有給休暇は全て使えない!?
   http://www.hou-nattoku.com/consult/731.php



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■ 法律クイズ 第119回 【問題】
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 「引抜き行為は法的に許される? 」

 □問題□

  英会話教室を経営するA社の営業部長であったBは、英語教材販売会社で
 あるC社に転職したうえで、A社時代の部下の内でも特に有能だった数人を
 C社に引き抜きました。A社はBに対し、引抜き行為に関して損害賠償を請求
 できるでしょうか。

 1. 転職は個人の自由だから、損害賠償は請求できない。
 2. 引抜き行為の態様によっては損害賠償を請求できる。


 ▼ 解答は、メールマガジン下部にあります。 ▼



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■ 法律クイズ 第119回 【解答】
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 「引抜き行為は法的に許される? 」

 □解答□
 
 2. 引抜き行為の態様によっては損害賠償を請求できる。

  会社の従業員は使用者に対して、雇用契約(民法第623条)に付随する信
 義則上(同法第1条2項)の義務として、労働契約上の債務を忠実に履行し、
 使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務(これを「雇用契約
 上の誠実義務」といいます)を負い、従業員がこの義務に違反した結果使
 用者に損害を与えた場合は、この損害を賠償するべき責任を負うとされて
 います(東地判平成3年2月25日。ラクソン事件)。

  他方、従業員には憲法22条の「職業選択の自由」から導き出される「転
 職の自由」が認められますので、自由である従業員の転職を勧誘したり転
 職に関する情報提供をしたりすることは、職業安定法上の職業紹介事業の
 規制にあたらない限り原則として自由です。

  よって、いわゆる引抜き行為も、通常の勧誘行為に留まる限りは適法と
 されます。

  ただし、引き抜く場合には退職時期を考慮し、あるいは事前の予告を行
 う等、会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきであり、会社に秘密
 に移籍の計画をたてて一斉に大量に従業員を引き抜くなど、引抜き行為が
 単なる転職の勧誘の域を超え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で
 行われた場合には、それを実行したBには元の会社Aに対する不法行為責任
 (同法第709条)が生じ、損害賠償義務が発生します。

  そこで、BのA社における地位、A社内部における待遇及び人数、従業員の
 転職がA社に及ぼす影響、転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無、
 秘密性、計画性等)などの具体的事情によっては、A社はBに対し、引抜き
 行為に関して損害賠償を請求できることになります。



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