サイト内検索:

企業のリスクマネジメント ~セクハラについて(3/4)

第3 セクハラ対策の必要性

1 セクハラは何よりも被害者の性的自己決定権、名誉権、プライバシー権といった憲法上の権利を侵害する行為であり、被害者の労働条件や心身に重大な影響を及ぼします。
 まず第一に事業主がセクハラの被害者の立場に立って対策を講じるというスタンスでいることが重要です。

2 そして、セクハラの加害者は、被害者の「人格権」や「働きやすい環境で働く権利」を侵害したとして不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があるだけでなく、性的言動の態様によっては、強制わいせつ罪(刑法176条)、強姦罪(刑法177条)、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、脅迫罪(刑法222条)などの刑事上の罪に問われる可能性があります。

 また、加害者本人だけでなく、使用者である企業も民事上の責任を負わされるケースが増えています。
 使用者は、労働契約に基づく付随義務として労働者に対して職場環境を整備する責任を負い、使用者がこれを怠った場合には債務不履行に基づく損害賠償責任を負います(民法415条)。さらに、この場合、使用者は不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります(民法715条。加害者が企業の経営者である場合には民法44条)。

 この点、日本の裁判においては、損害賠償請求額が高額化すると訴訟提起時に必要な裁判費用も高額化する仕組みになっており、また懲罰的損害賠償制度がないことなどから認定される賠償額がそれほど高くならないことから、米国ほど訴訟が頻発することを心配する必要はないという見方があります。
 しかし、被害者の立場から見れば、直接の加害者の資力が損害賠償額に足りない場合、填補(てんぽ)を図るために併せて企業を訴える途を選択する場合が多く、訴訟にまで発展した場合には会社も一緒に訴えられる可能性は高いでしょう。そして、仮に訴訟が起こった場合には、損害賠償責任という金銭的な損失に止まらず、企業イメージダウンによる影響は図り知れません。

3 法的リスクにまで発展しないまでも、セクハラを放置すれば、従業員のモラルの低下・秩序の乱れ、職場の生産性低下といった悪影響が生じますし、事業主がセクハラ防止の配慮義務を怠った場合、労働大臣による指導や勧告の対象となります(均等法25条)。
 加害者自身も個人的な信用失墜だけでなく社内処分の対象となるなど大きな影響が生じるでしょう。

4 セクハラ対策の必要性について御理解頂けましたでしょうか。次回は、事業主が具体的にどのようにセクハラ対策をすればよいのかを考えていきます。(続く)

前のページ| 1 2 3 4 |次のページ

ページトップへ