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わが国において死刑制度は存続させるべきか

一、死刑制度は必要でしょうか

 平成18年6月20日、山口県光市母子殺害事件の最高裁判決が下されました。判決は、従前の広島高裁の無期懲役判決を破棄し、同裁判所へ差戻すというものでした。何の罪もない母子を殺害するという残虐な犯罪であるにもかかわらず、被告人が犯行当時19歳であったことから、山口地裁・広島高裁は、被告人に死刑ではなく無期懲役判決を下していました。今回の最高裁の判決を受けて、広島高裁が被告人に対して死刑判決を下すかどうかが注目されています。

 死刑は、国家が強制的に犯罪者の生命を奪う重大な刑罰です。国家による殺人行為であるとか、人道に反するとして、死刑制度自体を非難する声が多くあります。世界的にも死刑を廃止している国が存置している国の数をはるかに超えており、世界の潮流は死刑廃止へ向かっています。この中で、わが国は、死刑制度を存置させ、国民の多くが死刑制度の存置に賛成しています。なぜ、わが国では多くの国民が賛成しているのでしょうか。わが国においても、人の生命を国家が強制的に奪うという死刑制度が本当に必要なのかを、考えてみたいと思います。

二、諸外国の死刑の状況

 第2次世界大戦後、世界人権宣言が採択され、キリスト教団体やアムネスティー・インターナショナル等の死刑廃止活動により、世界各国で死刑制度が廃止されています。1989年12月15日には、国連総会において、「死刑廃止に向けての市民的および政治的権利に関する国際規約の第2選択議定書」(死刑廃止条約)が採択されました。2005年現在、世界196カ国中、死刑制度を廃止し、または、事実上廃止した国は122カ国あります。これに対して、死刑制度を存続している国は74カ国です。特にキリスト教の信仰では、例えば自殺することが許されない以上は、人を殺すこともできない、まして人を殺す法律を作るなどということは、神の誡めに背くものだと考えますので死刑廃止となります。

 先進国で死刑制度を存続している国は、日本とアメリカの2国だけです。アメリカにおいても、50州のうち13州は廃止しています。アメリカが死刑制度を存置させているのは、わが国と同じく、国民が死刑制度を支持していることにあります。2004年5月のギャラップ調査では、71%のアメリカ国民が死刑制度を支持しています。このことから、アメリカの議会も死刑存置はやむを得ないとする風潮になっています。

三、わが国の死刑の現状

 わが国における死刑制度の推移をみてみると、1940年代から1960年代まで、死刑判決の確定件数は、常に二ケタ台であり、執行人数も二ケタ台で推移していました。1970年代以降の死刑判決の確定件数は、1988年の11件を除いて、すべて一ケタ台で推移しており、執行人数も1970年の26人、1971年の17人、1975年の17人、1976年の12人を除いて、すべて一ケタ台で推移し減少傾向でした。1990年代から2003年までは、死刑判決の確定数は2~7件、執行人数は0~7名と、明らかに減少しました。2004年は確定数が15件に増加しましたが、執行人数は2名のみです。2005年は死刑判決の確定数が11件に対して、執行人数が1名となっています。

 このように死刑確定数や執行人数が減少しているのは、世界的に死刑廃止へ向かう潮流となる中で、廃止国であるヨーロッパ共同体から死刑廃止を強く要求され、わが国においても死刑廃止論が活発化していることにあると思われます。1956年には、死刑廃止法案が参議院に上程されましたが、廃案になっています。現在、再び死刑廃止法案についての検討がなされています。

  

四、死刑制度を存続させるべきか

 死刑制度について、存続させるべきであるという意見と廃止するべきであるという意見が、鋭く対立しています。

 存続論者は、その根拠として、(1)絶対的正義の見地から、人の生命を奪ったものはその生命を奪われなくてはならないこと、(2)死刑には犯罪抑止効果があること、(3)凶悪な犯罪者を永久に隔離することで、社会を防衛することができること、(4)社会や被害者の応報感情に応えることができること、(5)世論が死刑の存置を支持していることなどを主張しています。

 これに対して、廃止論者は、その根拠として、(1)人道主義的にみると、死刑は野蛮な刑罰であること、(2)死刑には犯罪抑止効果はなく、かえって一般人にその残虐性を流布することで、生命を軽視する結果を招くおそれがあること、(3)社会からの隔離は無期刑で充分であり、むしろ処刑されるべき者を被害者の家族の救済に専念させることの方が有意義であること、(4)誤判に基づき死刑が執行された場合には、その回復を図ることができないこと、(5)死刑執行人に精神的苦痛を与える結果になることなどを主張しています。

 

五、死刑に対する裁判所の姿勢

1、死刑制度は憲法に反するか

 最判昭和23年3月12日は、「生命は尊貴である。一人の生命は、全地球よりも重い。死刑は、最も冷厳で窮極の刑罰である」とする一方で、「憲法13条は、公共の福祉に反する場合には生命の剥奪を当然予想している。さらに、憲法31条は、適正手続をもって生命を奪う刑罰を科すことを明定している。このように憲法は、死刑の存置を想定し是認したものと解すべきである」としています。もっとも、「死刑の執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有すると認められる場合には、憲法36条に違反するものというべきである」として、わが国の絞首による死刑制度は憲法に反しないとしています。

 

2、いかなる場合に死刑を選択ことができるか

 最判昭和58年7月8日は、「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等をあわせて考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許される」としています。

六、死刑制度の問題点

 死刑制度を存続させた場合、誤判による被害を絶対的に防止する必要があります。人が人を裁くという裁判制度の下では、誤解に基づいて判断をしてしまう可能性が大いにあり、それを防ぐことは至難の業です。誤判で死刑にしたら取り返しがつきません。また、被告人を死刑にすることによって、重大事件の真相が闇に葬られ、真実が何であったかを検証することができなくなる可能性があります。真実を知ることは、社会秩序を保護するために非常に有意義であると思われます。

 これに対して、死刑を廃止した場合、どのように被害者や国民感情に応えていくべきかを考える必要があります。2004年度において、80パーセントを超える国民が死刑制度の存続をやむを得ないと考えています。その理由の多くは、凶悪な犯罪は生命をもって償うべきであるというものです。また、死刑を廃止すれば、犯罪者の出所の可能性が出てきます。そうすると、出所後の再犯をいかに防止していくかという困難な問題が生じます。

以上

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