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虐待の果てに ― ある幼児の死 第八回

 12月下旬のことである。

 夕方から冷え込んできたため、倫子は気まぐれに、潰した米飯を白湯に溶かして与えようと考えた。最後に食事を与えてから、すでに丸1日たっていた。

 「愛奈、ご飯やで」

 返事は無かった。
  昨日は武と外食して遅くなり、そのまま寝てしまった。起きたときはもう昼になっていた。何か与えようとは思ったが、二日酔いのため、何もする気がしなかった。

 「何かやらんでもええのか」

 武が聞いた。最近、武は目に見えて機嫌が良くなり、二人の仲は回復していた。

 「この前ちょっと見たら、えらい毛が抜けとったぞ。どうもないんか」

 「大丈夫や。しんどかったら泣くやろし」

 武もそれ以上は問わず、倫子もそのまま寝てしまったのだ。
  リビングの灯りに照らされた娘は、頬がこけて目が落窪み、老婆のようだった。手足もさらに細くなり、自分で立ち上がることはできなくなっていた。

 「食べなあかんやろ、さ、食べ」

 愛奈は無言で頭を左右に振った。倫子は愛奈の上半身を抱き起こし、かゆ状の飯をスプーンで口に入れようとした。しかし、口を開かない。
  倫子はいらついて、少し指にとると、唇を開けて押し込んだ。愛奈はようやく飲み込んだが、すぐに吐いてしまった。

 「・・・そや、チョコレートがあったわ」

 武とパチンコに行って、玉をチョコレートに換えたのを思い出した。
  チョコレートを割って口に押し込んだところ、喉がかすかに動いたので、嚥下できたのがわかった。もう1片与えようとしたが受けつけなかった。少量の水を飲ませ、サッシを閉めた。
  リビングでは、武がテレビを見ながらビールを飲んでいた。最近では、愛奈にはほとんど関心がなくなったらしい。
  テレビは年末らしい歌番組を放映していた。

 「お前も飲まんか」

 二人はテレビを見ながらビールを飲み始めた。
  愛奈がベランダに出されてから、3ヶ月がたとうとしていた。

(続く)

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