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遺産分割協議編(後編)

4.未成年者、胎児、認知された婚外子、行方不明者がいるとき

1) 未成年者がいる場合

 未成年者がいる場合には、法定代理人である親権者が、未成年者に代わって遺産分割協議に参加することになります(民法824条)。(以下で、単に○○条とある場合は、民法の条文です)

 しかし、親権者自身が未成年者とともに共同相続人の一人であった場合は、未成年者の代理人として遺産分割協議をすることはできないことになります。
 これは、未成年者と親権者の利害が衝突するため、親権者の親権の公平な行使が期待できないからです(=利益相反行為)。

 この場合は、親権者は未成年者のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(826条1項、家事審判法9条1項甲類10号)。もし、未成年者が2人いる場合には、それぞれについて特別代理人の選任が必要です。
 そして選任された特別代理人は、未成年者の代理人として、遺産分割協議に参加します。

 もっとも共同相続人である親権者が自ら相続放棄した後、または放棄と同時に子の相続分についても放棄した場合は、親権者が相続放棄したことにより子との利害が衝突することにはならないので利益相反行為にあたらないことになります。

 また、自身は相続人でない親権者が共同相続人である数人の未成年の子を代理して遺産分割協議をする場合も、子同士の利害が衝突することになり、利益相反行為にあたりますので、他の子のために特別代理人を選任する必要があります(826条2項)。
 つまり、親権者に共同相続人である未成年の子が2名いる場合、一方の子に特別代理人を選任して、もう一方の子の法定代理人として遺産分割協議をすることになります。

 仮に未成年者の子がいて利益が衝突するにもかかわらず、特別代理人の選任をしないで親権者が遺産分割協議をなした場合には、無権代理行為となります(113条)。
 そして未成年者が成年に達した後に親権者のなした行為に対して追認しなければ、遺産分割協議は無効となります(116条124条1項)。

2) 胎児がいる場合

 胎児は、まだ生まれていないので権利を取得し義務を負担する地位(=権利能力)は原則として有していないことになります。
 しかし、相続(886条)と遺贈(965条)については、例外的に胎児が生れてくることを条件に権利能力を認めています。

 とすると、胎児がいる場合、胎児を無視して遺産分割をなされても、胎児が生まれた場合は、遺産分割のやり直しをしなければならなくなります。
 そのため胎児がいる場合には、胎児が出生するのを待って遺産分割協議をするのが妥当な方法といえます。

 もっとも胎児が出生した場合でも、例えば母親とその出生した子供が共同相続人の関係であった場合には、利害が衝突しますので、母親は子供のために家庭裁判所に特別代理人の選任を申立てることが必要です。
 この場合、その選任された特別代理人がその子供の代理人として遺産分割協議に参加します。この点は、未成年者のところで説明したのと同様です。

3) 認知された婚外子の場合

 婚姻外の子であっても父親から認知されれば非嫡出子として相続権を持ちますので、遺産分割協議に参加させることが必要です。

 問題は、被相続人の死後に認知されていた子が現れたが、既に遺産分割協議が終わっていたという場合です。

 例えば、父親の死亡後に子が認知の訴えを提起(787条)して認知が認められると、生まれた時点に遡ってその父の子であったことになります(784条)。
 このため、認知されたのが遺産分割協議後であっても、その子(=非嫡出子)には相続権があることになります。

 この場合には遺産分割のやり直しを求めることはできず、その相続分に相当する価額を各相続人に請求することができるにすぎません(910条)。

4) 行方不明者がいる場合

 共同相続人の中には、行方不明者がいる場合もあります。
 遺産分割協議は共同相続人全員が協議することが大前提ですので、行方不明者がいると遺産分割協議はできないことになります。

 しかし、いつまでも遺産分割協議ができないというのでは大変困ります。
 そこでこのような場合には、共同相続人は利害関係人として財産管理人の選任を家庭裁判所に請求し(25条1項、家事審判法9条1項甲類3号)、選任された財産管理人が遺産分割協議に参加します。

 なお、財産管理人は、不在者のために財産の保存、利用、改良する行為しか認められていないため、遺産分割協議を成立させるには、改めて家庭裁判所の許可を得る必要があります(28条103条)。

 なお7年以上生死不明の場合は、配偶者、相続人などの利害関係人は家庭裁判所に失踪宣告の申立てをすることができます(30条1項、家事審判法9条1項甲類4号)。
 失踪宣告が認められると、その人は死亡したものとみなされるため、その相続人に子がいる場合にはその子が代襲相続することになり、遺産分割協議に参加することになります。

 相続人の中に未成年者、胎児、認知された婚外子(非嫡出子)、行方不明者がいる場合は難しい問題を含みますので、次回詳しく説明します。


5.痴呆症など判断能力が不十分な方がいるとき

 痴呆症、知的障害、精神障害などの判断能力が不十分な方を保護する制度として、成年後見制度が2001年4月1日からスタートしています。
 成年後見制度は、従前の禁治産、準禁治産制度を改正した法定後見制度と、新たに設けられた任意後見制度からなっています。

 法定後見制度は、本人の判断能力が不十分な状態になったときに家庭裁判所が本人の障害の程度に応じて後見人、保佐人、補助人を選任する制度です。
 任意後見人制度は、本人が判断能力がある間に判断能力が低下した場合に備えて、契約によりあらかじめ任意後見人を選任する制度です。

 ここでは、法定後見制度を利用した遺産分割について簡単に説明します。

 共同相続人の中に、痴呆のために遺産分割の話し合いができない方がいる場合、特に自分の名前、家族の名前や自分の居場所さえわからなくなってしまう程に重い症状により判断能力が欠けている場合は、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て(成年)後見人を選任してもらい、その後見人に本人の代わりに遺産分割協議をしてもらうことができます。

 法定後見制度には、(成年)後見の他に、保佐、補助の制度があります。

  • 後見の場合は、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者(7条
  • 保佐の場合は、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者(11条
  • 補助の場合は、精神上の障害により判断能力が不十分な者(14条1項)

と障害の程度により、どの制度を利用できるかが異なります。
 この制度を利用するためには、本人、配偶者、4親等内の親族などが家庭裁判所に申立てをします(7条11条14条1項)。
 もっとも後見や保佐開始の審判と異なり、本人以外の者が申立てた場合は、本人の同意がなければ補助開始の審判はできないことになっています(14条2項)。

 後見人は、本人の財産に関する法律行為全般について包括的な代理権をもち、遺産分割協議を本人の代理人として行うことができますが(859条)、保佐人、補助人は後見人のように当然に代理権がありませんので、保佐または補助開始の審判(876条876条の6)とは別に遺産分割協議をすることについての代理権を付与する旨の審判を家庭裁判所に請求することが必要です(876条の4876条の9)。
 また、本人が保佐人の同意を得ずに遺産分割協議を行ったときには、本人または保佐人がその行為を取り消しできますが(12条1項6号)、補助人の場合は、補助開始の審判とは別に遺産分割協議をすることに関する同意権を付与する旨の審判を受けないと、被補助人が行った遺産分割協議に対して同意・取消を行うことができません(16条1項本文)。

 次回は、遺言編になります。

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