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日本の弁護士制度 その3

1、弁護士制度特集の第3弾は、「法律事務を弁護士が独占していること」について考えてみましょう。

 弁護士法72条は次のように規定しています。
 「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」。これが弁護士による法律事務独占の根拠とされている規定です。 長くてわかり難い条文ですので簡単に言いますと、
 「弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱ったり、その周旋をしてはいけません」という意味です。
 これに違反しますと、「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に処せられます(弁護士法77条第1項3号)

 

 なぜ、このような条文が設けられているのでしょうか。
 従来の考えは、法律業務は依頼者の権利・利益に直接影響することから法律の専門家としての教育を受け、資格を付与された弁護士のみが法律業務の遂行を認められるべきである、と説明していました。
 この考えに対しては、例えば、大学の法律相談部の活動のように無料だったら許されていることと矛盾している。内容が問題だというなら、有料・無料とも禁止されるべきである。
 諸外国に比べて弁護士の数が圧倒的に少なく、例えば、少額訴訟は引き受けない等、国民のニーズに弁護士が応えていない、等の批判がありました。
 これに対し、判例は次のように言っています。「弁護士の資格のない者が法律業務に介入することを認めると当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになる」(最大判S46,7,14)

 

2、弁護士だけが法律業務を取り扱うことができ、弁護士でない者は法律業務に携わることができない、というこの弁護士法の規定は現代の社会の現実とその要請にそぐわない面があるため、多くの例外が登場してきました。

平成15年に、この弁護士法72条但書が改正され、「~他の法律に別段の定めがある場合はこの限りでない」となったのもこの趣旨からです。「他の法律」による例外として、次のようなものがあります。

  1. わが国の経済の発展による貿易摩擦や国際社会のグローバル化の進展に伴い、アメリカやイギリスから外国弁護士の日本における活動の自由が求められた結果、日本の弁護士資格を持たない外国弁護士による法律業務の取扱いを認めました(外国弁護士による法律事務取扱いに関する特別措置法)。
  2. わが国のバブル経済崩壊後の金融機関の再生をはかるために、膨大な不良債権を早期に処理する必要性からサービサー法を制定し、債権回収という法律業務を民間の株式会社に認めました(債権管理回収業に関する特別措置法)。
  3. 現在の弁護士人口では国民の権利擁護に十分な対応ができず、また特定の分野については弁護士よりもその分野の専門家の方が詳しいことから、弁理士、税理士、司法書士に一定範囲の訴訟代理権を付与しました(弁理士法6条、2条5項、税理士法2条の2、司法書士法3条1項 6号7号)。
  4. 訴訟手続によらず民事上の紛争を解決しようとする当事者のため、法務大臣が認証した民間の紛争解決事業者が関与して、その解決を図る制度が認められました(ADR法)。ADRとは裁判外の紛争解決手段のことですが、これは厳格な手続にのっとって行われる裁判に比べて、紛争分野に関する民間の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決をリーズナブルな費用で図っていく制度です。認証を受けた事業者は、弁護士でなくても報酬を得て、和解等の仲介を行うことができます。

3、外国ではどうなっているでしょうか(以下は日弁連「自由と正義」Vol 57,61頁以下及び日弁連「パラリーガル」61頁から)

  1. アメリカでは、弁護士でない者が法律サービスを提供することを禁止しています(UPL法)。しかし、他方において、定型的・基本的なリーガルサービスを、安い費用で、直接、一般の市民に提供するインデペンダントパラリーガルや、リーガルテクニシャンと呼ばれる職業の方が活発な活動を行っています。
  2. イギリスでは、遺言の執行に関する6つの分野などにおいては、ソリシター及びバリスターといわれる弁護士を始めとする法律専門職による独占が認められています。しかし、これ以外の分野(例えば、法律相談や遺言書の作成など)では弁護士の独占は認められていません。
  3. ドイツでは、弁護士でなくても、管轄官庁により許可を受けた者(例えば、年金相談士、保険相談士、貨物検査士、宣誓競売士など)であれば有償無償を問わず、業として他人の法律問題への助言ができるとされ、広く弁護士以外の個人や団体によるアドバイスや助言を認めているようです。
  4. フランスにおいては、弁護士以外に複数の法律専門職(控訴院付代訴士、執行士、競売士、司法管財人など)が存在し、法廷業務については弁護士の独占が認められています。しかし、法廷外業務については弁護士以外の者にも比較的広く認められているようです。

4、日本での「弁護士による法律事務独占」の問題点について

  1. 弁護士に対して行ったアンケートによると、その7割が少額訴訟(訴額が60万円以内の事件)は受任しないと答えています。その理由は、報酬が少ないからです。実際、訴額が140万円以下とされる簡易裁判所の事件でも、弁護士が受任しているのは全体の約9.8%に過ぎません。(弁護士白書2006年度版、97頁)そのため、平成15年に法改正をし、司法書士に簡易裁判所での訴訟代理権を認めました。それまでは、弁護士は受任しないにもかかわらず、他の専門職が取り扱うのは「非弁活動」として禁止してきたのです。
  2. 現在、法律事務所で一番多い事件が多重債務者の債務整理と自己破産、過払い利息の返還請求です。これらの仕事はきちんとした処理マニュアルとソフトウェアがあるため、少し慣れれば一般人でも処理できるようになります。現に、多くの事務職員を雇って、このような業務を大量・画一的に処理し、報酬を引き下げている事務所はたくさんあります。法律事務の中にも弁護士でなければできない複雑なものから、それ以外の方でもできる簡単なものまで様々あります。後者のようなものは弁護士以外の者にも取り扱いを解禁し、報酬を安くすることが国民の利益になるという考えもあります。
  3. また、事実上、弁護士以外の者が取り扱っているものに、交通事故の示談交渉があります。これは双方の過失割合を認定したり、損害額などを決めたりするという極めて高度な法律事務ですが、これが保険会社の「アジャスター」と呼ばれる担当者によって行われています。このような業務こそ、法律の専門家である弁護士でなければできない分野とすべきだという意見があります。
  4. 企業の法務部が自社の法律事務を処理しても、弁護士法72条が禁止する非弁活動にはなりません。では、親会社の法務部が子会社の法律事務を取り扱うのはどうでしょうか。わが国の企業は分社化の傾向を強めており、親会社の法務部門が子会社の法律事務を扱う必要性は高まっています。親会社と子会社は形式的に法人格が別だと考えると「他人の」法律事務を扱うことになり、許されないと考えることにもなりかねません。これに対し、もし許されるとすると、100%親子会社ではない、単なる関連会社ならどこまで許されるのか、という問題も出てきます。
  5. ひるがえって考えてみますと、「弁護士に法律事務の独占を認めた弁護士法72条は誰のためにあるのか」ということが、もっとも重要なことでしょう。特に、地方では弁護士の人数が少なく、国民のニーズに応えきれていない現状から考えても72条は、弁護士の職域を他の専門家が侵害することを禁止して、弁護士に法律業務と利益を独占させるためのものではなく、弁護士でなければできない複雑・高度な法律業務を弁護士以外の者が取り扱うことによる弊害を防止し、国民の権利を守るためにあるのではないでしょうか。そうであるのなら、イギリスやドイツ、フランスのように、法律事務の性質や難易度により、弁護士にしかできないことと、それ以外の者もできることを区別して規制することも可能といえます。

さて、皆さまは「弁護士による法律業務の独占」についてどう考えますか。アンケートにお答えいただき、ご意見も積極的にお寄せ下さい。

弁護士による法律業務の独占について
  1. 弁護士法72条を厳格に解し、弁護士以外の法律業務の取扱いは一切認めるべきではない。
  2. 現在のように、法律業務は、原則として弁護士以外は取り扱えないとするべき。
  3. 法律業務のうち、専門性・難度の高いものだけは弁護士の独占業務とし、それ以外は弁護士以外も扱えるようすべき。
  4. 弁護士法72条は、法律業務と利益の寡占を許す不当な規定であるから、同条による弁護士の独占は認めるべきでない。

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